OpenClawと自社で作るAIエージェントの違い【第5部】

この第5部では、OpenClawのようなAIエージェント向けフレームワークと、自社で作る社内AIエージェントの違いを整理する。AI社員を作る選択肢は、既存ツールを使うか、自社の業務に合わせて組むかに分かれる。
比較すべきなのは機能数だけではない。中小企業では、コスト構造、既存契約の活用、社内データの扱い、人間が運用できるかが導入判断を左右する。
> シリーズ「AIエージェントを"社員"にしてみた」の第5部。今回は、私たちが最初に使っていたOpenClawからなぜ移行したのか、そして現在の構成で何が変わったのかを書きます。
最初はOpenClawを使っていた
実は、私たちのAIエージェントは最初からフルスクラッチで構築したわけではない。
2026年初頭にOpenClawが爆発的に広まったとき、私たちもすぐに導入した。Gateway、Brain、Memory、Skills、Heartbeat——OpenClawの5コンポーネント構成は、「AIエージェントを社員にする」という私たちのやりたいことに非常に近かった。
実際、現在の私たちのシステムの構造——チャットツール連携、LLM推論、MEMORY.md/GOALS.mdによる記憶管理、スキルシステム、OODAループ——は、OpenClawのアーキテクチャをベースにしている。
つまり、OpenClawの設計思想には大いにリスペクトがある。ではなぜ移行したのか。
移行した理由①:コスト構造
これが最大の理由だ。
OpenClawはオープンソースで無料だが、LLMのAPI呼び出しに従量課金が発生する。高性能モデルを使う場合、入力100万トークンあたり$5、出力100万トークンあたり$25。
これが現実的にどうなるか:
- 軽い個人利用なら月$5〜30程度。問題ない
- 中小企業が日常的に使うと、一人あたり平均$6/日。月に換算すると$120〜240
- マルチチャンネルで本格運用すると月$700〜3,200+
「AIエージェントを社員にする」つまり毎日、チーム全員が気軽に使うことが前提の場合、従量課金は心理的なブレーキになる。
「このタスクをAIに聞いたら何円かかるだろう」——そう考えた時点で、AIは「気軽に話しかけられる同僚」ではなく「コストセンター」になってしまう。
私たちのアプローチは、既存のAIサブスクリプション(月額固定)の範囲内でエージェントを動かしている。どれだけ使っても追加のAPI費用は発生しない。
チームの誰もが、何回でも、「とりあえず聞いてみよう」ができる。この差は、特にAI活用がまだ定着していないチームでは決定的に大きい。
移行した理由②:Claude Codeの推論力
もう一つの理由は、エージェントの「頭の良さ」だ。
OpenClawはモデル非依存——Claude、GPT、Gemini、DeepSeekなど 複数のLLMに対応している。これは柔軟性というメリットがある一方で、各モデルの最も深い機能を引き出しきれないという側面もある。
私たちはClaude Codeをエージェントの「頭脳」として使っている。Claude Codeは単なるAPI呼び出しではなく、長いコンテキストの中で多段階の推論を行い、ツールを自律的に組み合わせ、複雑なタスクを一気通貫で処理できる。
具体的に何が違うか:
「ブログ記事を書いて」と頼んだ場合——
OpenClaw + API呼び出しの場合は、スキルを組み合わせて「キーワード調査→記事生成→画像生成→レビュー用の変更作成」のパイプラインを自分で設計する必要がある。各ステップでAPIコールが発生し、コストが積み上がる。
Claude Codeの場合は、目標ファイルを確認し、過去の記事を確認し、アクセス解析データを参照し、記事を書き、画像を生成し、コードリポジトリにレビュー用の変更を作成するところまで、一つの思考の流れの中で自律的に実行する。スキルの呼び出し順序もコンテキストに応じて動的に判断する。
この「一つの長い思考の中で仕事を完結させる」能力は、サブスクリプション範囲内のClaude Codeだからこそ気兼ねなく使える。API従量課金なら、この長い推論チェーン1回で数ドルが飛ぶ。
セキュリティの話もしておく
移行理由として最初に挙げたのはコストとモデルの能力だが、セキュリティも無視できない。
OpenClawは急成長の過程で深刻なセキュリティ問題に直面した:
- リモートコード実行の脆弱性(CVSS 8.8)が発見された。悪意あるリンクをクリックするだけでエージェントが乗っ取られる可能性があった
- スキルマーケットプレイス(ClawHub)で824件以上の悪意あるスキルが発見された。プロンプトインジェクション、認証情報の窃取、リバースシェルが仕込まれていた
- スキル全体の約20%が悪意あるものと推定されている
- デフォルト設定で全ネットワークインターフェースにバインドされるため、13万5千以上のインスタンスがインターネットに露出していた
もちろん、多くの脆弱性にはパッチが適用されているし、VirusTotalとの連携でスキルの審査も始まっている。コミュニティの力で改善は進んでいる。
ただ、中小企業がセキュリティ体制を自前で整えるのはリソース的にきつい。私たちのシステムは自社管理のインフラ上で動作し、スキルもすべて自社開発だから、外部のスキルマーケットプレイスに依存するリスクがない。
OpenClawの方が優れている点
公平を期すために、OpenClawの方が優れている点も書いておく。
モデルを選べる柔軟性。 特定のLLMに依存しないということは、プロバイダーのサービス変更リスクを分散できる。ローカルモデルも使えるので、完全にオフラインで動かすことも可能だ。
巨大なコミュニティ。 16万スター、5,700以上のスキル。世界中の開発者が機能を追加し続けている。自社構築だとすべてのスキルを自分たちで作らなければならない。
50以上のチャンネル統合。 Slack、WhatsApp、Discord、Telegram、Signal——私たちは使っているチャットツールだけだが、OpenClawならほぼすべてのメッセージングプラットフォームに対応できる。
データの完全な主権。 すべてローカルで動作するため、データが自分のマシンから出ない。
「どちらか一方」ではない
実際のところ、OpenClawを個人の生産性ツールとして使いつつ、社内の業務自動化には別のシステムを使う——という使い分けをしている企業も多い。
大事なのは自社の状況に合った選択をすることだ:
- エンジニアが多く、セキュリティ体制が整っている → OpenClawの柔軟性を活かせる
- 少人数で、追加コストを抑えたい → サブスクリプション活用の自社構築が合理的
- AIに「同僚」として気軽に話しかけてほしい → 従量課金の心理的ブレーキがない構成が向いている
まとめ
私たちがOpenClawから移行した理由は、シンプルに2つだ。
1つ目はコスト。 月額固定のサブスクリプション内で使い放題にすることで、「とりあえずAIに聞いてみよう」のハードルをゼロにした。
2つ目は、Claude Codeの推論力をフルに活かせること。 長い思考チェーンの中で自律的にタスクを完結させる能力は、「AIを社員にする」という私たちのコンセプトに最も合っていた。
OpenClawは素晴らしいプロジェクトだし、私たちのシステムの基盤でもある。ただ、中小企業が「AIエージェントを社員にする」という観点では、コスト構造とモデルの能力——この2点が決定打になった。
OpenClawと自社AIエージェントを比較するときの見方
OpenClawと自社AIエージェントの構築を比較するときは、機能数だけで判断しない方がいい。OpenClawの公式ドキュメントでは、OpenClawは 50以上のコミュニケーションチャネルにつなげる自律エージェント基盤 と説明されている。広いチャネル対応やセルフホスト性は強い。
一方で、社内AIエージェントを毎日使うなら、運用コスト、既存ツールとの相性、誰が保守できるかが効いてくる。Claude Code の CLI reference のように、普段の開発・運用コマンドに寄せられるなら、自社構築の方が小さく始めやすい場面もある。
シリーズ一覧
- 第1部: なぜ社内にAIを常駐させたのか
- 第2部: Slack × Claude × GitHub アーキテクチャ概要
- 第3部: AIが会社を理解する仕組み
- 第4部: Slackから指示が飛ぶ集合知の仕組み
- 第5部: OpenClawとどう違うのか(本記事)
- 第6部: 実際に何が自動化できたか
- 最終回: 中小企業がAIエージェントを導入するためのロードマップ
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